高等学校教育におけるプログラミング教育の重要性

高校におけるプログラミング教育で期待されていること

 AI(Artificial Intelligence)やIoT(Internet of Things)が身近になった高度情報化社会において簡単なプログラミングができることは、もはや国民的素養の一つになっています。このような背景もあり、2022年度から高等学校では「情報Ⅰ」が必履修化され、原則的には全ての高校生がプログラミングを学ぶようになりました。

 プログラミングの学習を通じて期待されることはいくつかあります。1つ目は物事を論理的に考えていける力をつけることです。自分が意図した結果となるためにはどのようなコードを書けばよいのか、どのようにブロックを組み合わせればよいのか、といったことを順序立てて考えていくことが大切になってきます。

 2つ目はプログラミングの見方・考え方で世の中を見られるようになることです。言い換えると、プログラミングのメガネで物事を捉えられるようになることです。たとえば、いつも利用する図書館の学習用机の混み具合が、実際にその場に行かないと把握できなかったとします。そういうものだ、と諦めるのではなく、プログラミングのメガネをかけ、どこにどんなセンサーをつけ、どのようなプログラムを作れば遠隔から把握できるのか、といったことを考えられるようになってほしいと思います。

 プログラミングの学習と日常生活を切り分けて考えるのではなく、オーセンティック(真正)な文脈で物事を捉え、課題解決のために論理的に思考できるような人材が社会で活躍していくことで、世の中は今よりもっと便利で快適になっていくのではないでしょうか。

高校生がプログラミング教育を受けて社会で活躍するために、どのような人材を育てていくべきか。

 プログラミング教育を通じて、プログラミングスキルやプログラミング的思考を高めることは大事です。プログラマーの需要はさまざまな業界で高まっており、自動車業界や金融業界でもプログラミングができる人材を積極的に採用しています。しかし、プログラミングができるだけでは社会で活躍することは難しいのではないでしょうか。

 誰とも協働せず、たった一人で仕事をしていくことはあまりないと思います。だからこそ、仲間と合意形成をするスキルや役割を分担しながら連携して物事を進めていくスキルが大切になってきます。高校でのさまざまな学びの場面を通じて、こうしたスキルを獲得していってほしいと思います。

 また、社会では課題は人から与えられるばかりではなく、自分で問題意識を持ち解決するべき課題を自ら設定できる力が大切になってきます。さらに、課題を解決するために必要な情報を集めたり、集めた情報を整理・比較・分析できることも欠かせません。そして、自分のアイデアや成果物を分かりやすく相手に伝える表現力も極めて大切な力です。

 将来的にプログラミングに関わる職業に就かなかったとしても、プログラミングの学習を通じて獲得した課題設定の力、情報収集の力、情報を整理分析する力、表現力等はどのような職でも必要となる汎用的な資質・能力です。プログラミングの学習を通じて、これらの力を身につけた人材を育てていってほしいと思います。

山梨大学 教育学部 准教授・博士(学術)
三井 一希 氏
山梨県公立学校教諭、台北日本人学校(台湾)教諭、常葉大学講師等を経て現職。
専門は教育工学(特に学びのデジタル化、授業デザイン)。
文部科学省ICT活用教育アドバイザー等を務める。

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