クリエイティブな体験の重要性
子どもも大人と同じスペックのデバイスを使いこなす昨今、テクノロジーの民主化が進みました。初心者でもプロと同じツールを利用してものづくりをすることができ、ものづくりのハードルそのものは下がってきていると言えます。言い換えると、個人の技術力や手先の器用さではなく「想像力」でクリエイティブのクオリティに差がつくとも言えます。「想像力」には幅広い意味がありますが、その一つには「目の前の課題の存在に気づき、それが解決可能であるという感覚を持つ」ことだと思います。私は人生で2回海外に留学しましたが、日本はいろいろな面で便利すぎて、日常に不便を感じることが海外に比べて少ないと感じます。つまり課題に直面する機会が乏しい。そのことが目の前にある問題を問題と捉えられず受け入れてしまっている状況が多いと感じます。例えば、人が水中で呼吸することができる「人口エラ」を開発している人がいるそうです。私を含め、多くの人は水中で呼吸できないことは当たり前すぎて、それが課題とすら思いもしないはずです。この人にとっては過去に学んだ技術の力でそれが解決可能な課題であるとひらめいた瞬間があったのでしょう。そしてひらめいたあとの次のステップが身近にあったはずです。技術や知識、それらを試せる環境の大切さはここにあります。そのためには子どものころから体験を通じた多くの知識を得ることが欠かせないことは当然ながら、大人にも必要なのではないでしょうか。それらが本人の遊びの延長線上にあれば最高ですね。
クリエイティブに必要なのは安全に失敗できる環境
私が考えるクリエイティブの面白さは、「頭の中で想像していたことが実際にかたちになること」です。人は毎日のように何かしらのアイデアをひらめいていると思います。一方で、それらのほとんどは、その日のうちにその人の頭だけで消えてしまっているのが現実でしょう。これは、アイデアをひらめいた後の次のステップが思いつかないからだと思います。簡易な試作品をつくってみたり、アイデアを実現できそうな人に話したりすることが次のステップになりますが、それが叶わずそのうちに忘れてしまう。THE DECKでは3Dプリンターやレーザー加工機など、誰でも比較的簡単にアイデアを形にできるような機材を揃えています。「THE DECKに行けば、このアイデアがかたちにできるかもしれない」と思ってもらえるような場でありたいと思っています。そうあることで、誰かのアイデアがその人の頭だけで消えてしまうことを防げるかもしれないからです。また、クリエイティブな能力を発揮し育てるためには、「安全に失敗ができる環境」が重要だと思います。クリエイティブは正解がなく、評価することが難しい分野です。その時代や状況によって「よい」とされる基準や感覚があり、それらも毎日少しずつ変化していきます。自分や評価者にとって、何がよいクリエイティブなのかを認識するためには、多くの試行錯誤が欠かせません。失敗のたびに、批判されるなどの身の危険が及ぶ環境では人は失敗のリスクがある挑戦を試みることをしません。そういう意味ではTHE DECKもスクーミーも、安全に小さな失敗を重ねながらさまざまなものをつくったり、多くの体験を得たりすることができる環境なのではないかと思います。


THE DECK
森澤 友和 氏
THE DECKは、大阪市中央区にある“ものづくりができる”コワーキングスペース。
3Dプリンターやレーザー加工機などアイデアを気軽に形にできる機材が豊富に揃っているほか、多数のイベントも開催。
ものづくりを趣味や職業とする幅広い世代の人が集まる場となっている。

