これから社会を生き抜くために必要な「考える力」について

「考える」を具体化してみることの価値

 みなさんも学校の授業で「考えてみよう」と生徒に問いかけた経験が1度はあるのではないでしょうか。私はさまざまな学校を訪問し、授業を見てきました。その時教師の発問から「考えよう」という言葉が聞こえる機会が多いことに気付いたのです。私のように初めて授業を聞く人からすると、これは今何を指示されているのだろうと思うことも。私はその経験から、教育現場でよく使われる「考える」という言葉を、「順序立てる」「比較する」「多面的にみる」など19個に分類しました。この具体的に記述した言葉を「思考スキル」と呼び研究を進めることにしました。(表1参照)

 今後変化の激しい世の中を生き抜くために、子どもに求められる能力の1つが「考える力」です。この力を育むために教師が生徒に対して、ものごとの考え方を意識付けて学習させることが重要になります。教師も授業の中で生徒に求める「考える」をより具体的な言葉に置き換えることで、学習活動や支援が明確になるのではないかと思います。

表1「考える」を19個の言葉に分類した「思考スキル」

「考える力」を育てる教育に必要なこと

 同じ教科内においてだとしても子どもたちに求められる「考える」は、多種多様だと思っています。例えば社会科で「地域の環境問題について考える」といった課題が挙げられたとしましょう。生徒たちはこの時どのように考えるでしょうか。過去の気温やごみ排出量のデータを集めて「比較する」生徒もいれば、今ある地域の環境問題を挙げ、その中から原因ごとに「分類する」生徒もいるかもしれません。農家や漁師などさまざまな立場から問題点を洗い出して、「多面的にみる」といった考え方もできるでしょう。このように多くの考え方ができる発問に関しては、教師が生徒の立場であればどの「思考スキル」を使って考えるのかといったことを明確にしておくことが大切になると思います。

普段の生活からも培われる「考える力」

 普段から子どもたちはどっちのお菓子を食べるか、どのおもちゃで遊ぶかということは考えているはずです。それを教師や周りの大人が「今は比べて考えたんだね」や「今は順番を考えて判断したんだね」といったようにどの「考える」を使ったのかを子どもたちに意識させることが重要です。普段の生活から何気なく考えていることに意味付けをしてあげることで「考える力」が育まれるでしょう。

 この力というものは、一度意識しただけでは身に付きません。何回も意識的に繰り返される中で、培われる力だと考えています。そのため授業中だけでなく、普段から子どもたちに「考える」ことへの意識付けをさせることはとても大事です。

 現代社会は、テクノロジーの普及により、個人が処理すべき情報量も格段に増えたと言えます。膨大な量の情報をまとめ上げ、頭の中で正しく整理し、分析する能力は必須となるでしょう。まず教師には「思考スキル」の視点から、思考力を具体化していただき、教育現場で「考える力」を育む教育をしてほしいと思います。

鳴門教育大学大学院学校教育研究科 准教授
泰山 裕 氏
専門は情報教育、思考力育成、探究的な学びのデザイン、教育工学。
関西大学大学院、鳴門教育大学講師を経て現職。
思考力育成や探究的な学びの充実、学習の基盤としての情報活用能力の育成に関する研究を行っている。

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