何を学ばせたいかを明確にする教育
マンガを研究に取り入れたきっかけは、小学校か中学校の頃にブラックジャックを読み、大人になってから再読したら内容がとても深いことに驚いたことです。当時はおもしろいと感じつつも、命の大切さのような部分しか理解できなかったのですが、成長して知識や考え方が増えると手塚治虫の作品が今日的な課題を描いていたことに感動しました。学校教育ではマンガが否定的に捉えられていましたし、私が学生の頃はさらにその傾向が強かったように思います。マンガの深い部分に触れ教育的な価値を見出したいと思い、研究し始めました。
マンガも含め、子どもたちに何を身につけさせたいかをはっきりさせないと、単におもしろい授業だったというだけで終わってしまいます。マンガはわかりやすいメディアと思われがちですが、実際はさまざまな記号や独特の文法が組み合わさっており、文字だけでは伝わらない情報も多いです。それを理解し、背景や登場人物の心情を読み取る力を養うことが大切です。子どもたちにマンガを通じて学びを提供することで、視覚的に情報を処理する能力や文脈の理解など、多様な力を伸ばすことができると思っています。
これらを考えた上で、マンガを教育に活用する際は、子どもたちに何を学ばせたいかを明確にし、その目的に合った指導方法を取り入れる必要があります。マンガは子どもたちの身近なメディアであり、意識的に活用することでより効果的な学びを促すことができるでしょう。マンガだけでなくAIなど新しく導入されていくテクノロジーに関しても同じことが言えます。
AIを学校現場で活用する際に意識すべきこと
教師がAIを活用する際には簡単な仕組みを理解し、その特性や仕組みを簡単に説明できる範囲で把握することが重要です。AIの導入によって効率化が可能な部分を見極め、繰り返し行われる単純な処理などは任せることで、教師の負担を軽減できるのではないでしょうか。教師がより多くの時間を授業の質の向上や深い学びに割くことで、深い学びが提供できるのではないかと思います。
同様にAIを使う際には、子どもたちも同様に基本的な仕組みを理解することでとにかく危ない、怖いといったイメージを書き換えることができるのではないかと思っています。AIを効果的に使いこなすためには、どのようなことに活用できるかを理解し、それを自らの学びや課題に応用していく意識が大切です。AIの活用により教師はより主体的に授業の内容を深め、生徒たちも自らの学びを追求する時間を得ることができるようになると思っています。AIを上手く活用して、より効果的な学びの環境をつくるためには、教師や教育関係者がAIの特性や可能性をよく理解し、それを柔軟に応用する意識が必要です。AIを単なる手段としてではなく教育における価値あるツールとして活かすことが、より良い教育の実現につながるでしょう。AIを導入する際の問題点は、「みんな一緒が良い」といった価値観で新しい技術の導入や教育の質を落としてしまうことです。一人ひとりが自分の良さを伸ばせる環境を大切にし、一律なルールに縛られずに個々の特性を尊重することが重要です。より柔軟なアプローチを取ることで、すべての子どもたちが自己成長できるような環境を築いていくことが望ましいと思います。

京都教育大学 教育創生リージョナルセンター機構 教職キャリア高度化センター 講師 大久保 紀一朗 氏 東京都小学校教諭、島根県小学校教諭、島根大学教職大学院准教授を経て現職。 専門は教育工学(メディア理解、メディア活用)。 文部科学省 学校DX戦略アドバイザー等を務める。

