人と感覚を共有できる技術
誰しも1回は憧れのプロ野球選手やプロの演奏者のように、上手にボールを投げたり、楽器を演奏したりできたら良いなと思ったことがあるかと思います。その思いを叶えるべく開発したのが、他者やアバター、ロボットなどと感覚を共有する「ボディシェアリング」技術です。例えばピアニストの感覚を共有することができれば、誰でもピアニストと同じ滑らかな手つきでピアノを弾くことができるようになります。ボディシェアリングの開発によって力加減や重さ、抵抗感覚などを共有できるようになりました。
教育現場の常識も変えるボディシェアリング
このボディシェアリングの技術は教育現場でも適用できると思っています。今まで体育の授業では、生徒たちは人の様子を視覚的に見て、まねてスポーツの技法を学んでいたと思います。指導する側の教師も、言葉(聴覚)や動き(視覚)で伝えることしかできませんでした。しかしこのボディシェアリングを活用することで、教師が言葉などでは伝えにくかった微妙な違いなども、より正確に指導することができるようになるのではないかと思います。具体的には、野球においてピッチャーがボールを投げる際、どの部分の筋肉にどの程度力を入れれば良いのかまで共有し、指導できるようになります。この技術の普及により、効果的なトレーニングや学習につなげられることは間違いないでしょう。今後も多くの技術が開発されていく中で、教育現場が新しいテクノロジーをどんどん取り入れ、上手に付き合っていく必要があると私は思っています。

学校教育における問題とデジタル教育の必要性
子どもたちが小学校、中学校でデジタル教育を受ける機会がとても少ないことが、日本の教育現場の問題点です。日本の子どもたちがデジタルを活用する知識は他の先進国や発展途上国の子どもたちと比較しても、だいぶ低い位置にあります。
日本が今よりもデジタルに強い国になるために、全ての教育現場で最新のIT技術を活用していってほしいと思います。例えば国語の教師だからITが必要ないというわけではなく、全教科全分野で教育に関わる方々がデジタルを活用できるようになるべきだと思っています。大人になっても知識のアップデートは必要です。今、日本では、各人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すリカレント教育が活発に行われています。子どもだけにデジタルを学ばせるのではなく、教師たちも学んでいくという姿勢を一緒に見せていきましょう。教師や子どもたちも職場や学校という枠組みを超えて、さまざまな体験をしてほしいと思っています。特にデジタル人材やできれば海外の人材とも触れ合って、協力して何かをつくっていく経験をしておくと良いと思います。また多くのコミュニティを通して、コンテストなど自分の考えをアウトプットできる場に参加することも大切です。多種多様な考え方、文化、デジタルの使い方を学ぶことで、自身の能力をアップデートし続けてほしいと思います。

琉球大学 工学部 教授 H2L, Inc. CEO 東京大学 大学院 工学系研究科 教授 玉城 絵美 氏 豊かな身体経験を共有するBodySharingとHCI研究と普及を目指す研究者兼起業家。 2011年PossessedHandを発表しTime誌が選ぶ50の発明に選出。 2012年H2L, Inc.を創業し、UnlimitedHand、 FirstVRなどの製品を発表。 2020年国際会議AugmentedHumanにて、近年最も推奨される研究論文として表彰。

