廃材アートをつくり始めたきっかけ
最初の作品は高校3年生の時にイグアナをつくったものでした。当時ガラパゴス諸島に興味を持ち、特にウミイグアナという生きものがお気に入りだったんです。普段は美術予備校で油絵などを学んでいたのですが、この作品では自分自身で大きさやモチーフ、材料の選択も自由で、何にしようか迷いました。
ガラパゴス諸島はダーウィンの進化論でも有名ですが、大自然の象徴のような場所で、そこに住む生きものをつくるのにどのような素材を使うか悩みました。そこであえて都会の廃材という対極にあるものを材料に選ぶことで、自分なりに環境問題に対するメッセージを作品に込められるのではと考えました。この作品がきっかけで、それから廃材で生きものの作品をつくり続けています。

富田さんが感じる廃材の魅力
誰かが使っていたというストーリー性に魅力を感じています。廃材には錆びや使い込まれた跡などがあり、1つとして同じものは存在しません。廃材はそのものがたどってきた歴史を感じることができるので趣がありますよね。
錆びなども非常にロマンチックだなと感じます。もし材料の全てが新品だったら、もっと冷たくロボットのように見えてしまうかもしれません。しかし錆びや使い込まれた風合いが加わることで、金属ながらも温かさを感じることができます。年月を経てできた錆びや鍋の焦げた跡など人が使っていた痕跡が味わいとなり、作品の生きものに馴染んでくれるおかげで、優しい表情の作品になっていると思います。

視点が広がるきっかけ
以前「あなたの作品を見た後、道端に落ちている錆びた鉄が気になって拾ってしまった」と言われたことがありました。おそらくそれまで気に留めていなかったものに目が向き、何か魅力的に感じたのだと思います。その時私の作品がその人の中で少しでも変化をもたらせたのだと思い、とてもうれしかったです。
私の作家活動によって劇的に世界のごみが減るわけではありませんし、私の作品が環境に直接的な影響を与えることはできません。しかし作家活動を通じて誰かの視点を変えていくことができたら良いなと思っています。人々の視点に影響を与えて、これまで気に留めていなかったものを素敵だと感じてもらえることはとても光栄です。
よく私の作品を鑑賞してくださった方が、家にある使わなくなったものを持ってきてくれることがあります。他の方からもらったものには自分が作品の材料として選ばないようなものも含まれることがあります。自分が選ぶ廃材だけだと偏りがあり、無意識のうちに集まる素材が制限されてしまいます。最初は作品には使えないかもしれないと思っていても、数年後に思いもよらぬ形で大活躍することもあるんです。他の人からいらなくなったものをもらうことで、作品のアイデアが広がっていくきっかけになります。だから私にとって作品を通じての人とのつながりは、大切でうれしいことだと思っています。

作品のヒント
私は昔から生活の中でいろいろなものを生きものに見立てて妄想することがあります。工事現場のショベルカーがうなだれたキリンに見えたり、街中のさまざまなものを擬人化したり、性格を考えたりして楽しんでいるのですが、そうした発想が作品につながることがあります。作品を制作するアイデアは、日常と切っても切り離せない関係にあると思っています。
まずは自分自身が何に興味を持っているかを自覚することが、大切だと思っています。自分が気になるものを意識するとその興味に向かって探究することができます。例えば普段からカメラで面白いと思ったり、気になったものを撮りためておき、後で見返すと自分が興味を持ったものに傾向が見えてくるかもしれません。そうやって少し気になったものをどんどん掘り下げていけばとても面白いことにつながることもあると思います。

廃材アーティスト
富田 菜摘 氏
捨てられるはずのものを組み合わせ、愛くるしい動物などを制作。ワークショップを開催したり、店舗やテレビ番組の美術制作なども担当し、全国各地で引っ張りだこのアーティストです。アートの力を通じて、廃材の魅力や面白さについて発信しています。富田菜摘さんの作品は国内外で数多く展示され、今後も見る方々を魅了し続けていくことでしょう。

