アウトプットしたことが最大限に生かされる教育
私が教育に関わろうと思ったきっかけは、授業で自分の好きなようにアウトプットさせてくれる教師に出会ったことです。その教師の授業の進め方が私には合っていて。私はもともと人の話を長く聞き続けるのがあまり得意ではなく、人と意見交換することで学びを深めていくタイプでした。その教師は生徒おのおのが好きなタイミングで自由にアウトプットをし、最後に子どもたちがオリジナリティのある成果を挙げようという考えで。アウトプットしたことが最大限生かされる教育の考え方に影響を受け、現在の研究を始めました。
アウトプットの方法には「書く」「話す」があると思います。現代で行われている授業の中で、自分の好きなタイミングで発言できる機会は限定的でしょう。「書く」に関しては、その都度ノートに残すことはできますが、自分の中だけで留まってしまう。自分のアウトプットしたいタイミングで、同時に他の人にも伝わるようにすることが望ましいです。1人1人のアウトプットを最大化するために、クラウドを使った方が良いと思います。既に大人の社会では、スマートフォンでLINEやSlackを使って、自分の好きなタイミングで意見を送り合っていますよね。クラウド環境はSNSと一緒で、人と人をつなげるツールだと捉えています。自分のタイミングで好きなことをアウトプットできるようにするためには、1人1台のコンピュータを上手に活用する術が必要でしょう。
生徒が学びがいのある環境をつくるために
大手のテック企業や現代社会では、詳しい知識を一問一答できる人材ではなく、自分の考えについて無限に語れる人材の方が求められています。授業の中で自分のタイミングでアウトプットができると、多様な他者とのコミュニケーションが必然的に生まれ、子どもたちはクリエイティブに考える能力が培われます。そのため教師は授業の中での課題づくりが大事になると思うんですね。教師がまず子どもたちにやりがいのある環境をつくってあげるということが大切です。例えば国語だったら、源氏物語の世界における「誠実さ」とは何かみたいなことを8時間くらいかけて解決するとか。こういった問いを解決するために、文章を理解し、品詞分解をすることなども当然必要になるでしょう。これまでの授業で子どもたちがやっていた学習活動は、このような課題でもできてしまいます。やりがいのある大きな目標を教師が用意することで、目をキラキラさせて課題に臨む子どもが増えるのではないでしょうか。
さまざまなツールをフル活用する能力の重要性
現代社会で「あの人は時間を守る人だよね。」と言われる人は、体内時計ではなく一般的な時計を使うことを前提に評価されていますよね。時計やアラームやリマインダーを使って正確に約束の場所に現れることで、「時間を守る」という評価につながるわけです。しかし学校教育のこれまでの評価は、体内時計で評価しているのと同じことが言えるのではないでしょうか。例えばテストの中で、「この漢字ってこれで合ってるかな。」「計算大変だな。計算機使いたい。」といった思いを押し殺して、自分の頭一本で戦っていく必要があります。これは体内時計で時間が正確かみたいなことを測られてるのと似たようなことです。さまざまなテクノロジーやリソースを駆使して実現できることが、現代社会における「能力を持っている」ことだと私は思っています。
あらゆるリソースを活用してできることの中に、友達や先生に聞くということも入っているはずです。人とつながることで、個々の能力はますます豊かになっていくと思っています。これからの学校教育では、子どもたちが好きなタイミングで自分の考えを共有できる環境づくりや、数多くのテクノロジーを活用しながら学びを深める授業構成が必要になると思います。
横浜国立大学 教育学部附属教育デザインセンター 助教 村上 唯斗 氏 都内小学校講師を経て現職。 教育DXの研究に従事。 主体的な学びを実現するための授業づくりや、そのための1人1台端末活用、情報教育に関する研究を行っている。

