情報技術をアウトプットする機会に

誰でも参加できる大会

 ファイナルラウンド9組の発表を見させていただき、みんな頑張ってつくっていたと率直に感じました。学校教育との関係から言うと、学校で習っているプログラミングとダイフェスタとではそう大きく違いがあるわけではないので、特別な人が参加というよりも誰でも参加できる大会でした。情報教育を全体に広げていく大会として良いと思います。

「情報Ⅰ」で習った力を存分に活用

 どのチームも「情報Ⅰ」(高等学校段階における、情報社会の問題解決やプログラミング、情報デザイン、ネットワーク、データ活用などを学ぶ必履修科目)で習った力を存分に活用していたと思います。情報社会である普段の生活から問題点を見出して解決するというステップをきちんと踏んでいることに加え、コンピュータとプログラミング分野の知識も広く使っていました。また、ダイフェスタにおいては、情報デザインの「デザイン」部分が大きく占めていると感じました。ユーザー体験と言われる、コンピュータと人をどのように関係させて満足度を上げるかなどの人がコンピュータを使う時の心の動きも考慮していました。改善点を挙げるとすると、技術力だけではなくて利便性に考慮して開発しなければならない、といった感性的な評価視点を審査項目に加えると、子ども達はより多面的に気遣ってつくっていくと考えます。

形のない社会課題に取り組む姿

 小学生向けに情報技術を教えるプログラミング教室イベントを開催していたチームがあり、課題が物ではなくて社会そのもので、形のないものをつくろうとしていました。この活動は社会課題の解決につながると思います。小学校で体験的なプログラミングの授業がありますが、できることは限られているため、深く興味を持った子ども達の受け皿として非常に有効に働いた活動でした。興味はあるけれど方法も目的もなかった状態から、伸びる機会を与えられたということはとても大きいです。高校生にとっても、学校教育ではインプットがほとんどでアウトプットが少なく、小学生に情報技術を教えることによって「情報Ⅰ」で習ったことをアウトプットする機会としての学習的意義があると考えます。習ったことがきちんと役に立つことを実感し、子ども達が伸びていくことを目の前で見て、社会の役に立っている成果を感じることができます。形にならないものがきちんと機能して、高校生と小学生それぞれが伸びていくのが素晴らしいことだと思います。

 今回はイベントとしてでしたが、子ども達が常に集まれる場所として定期的に開催していくとより良いですね。高校生が教えるのではなく、一緒にその場にいて一緒に考える、聞かれた時に答えるというような日常的な学びの場を設定できることが望ましいです。場所の用意をすぐにすることは難しいと思いますが、放課後児童クラブを順番に訪ねてまわるような手段もあります。高校生の教える力はぐんぐん伸び、参加できる子どもの人数は増えます。現在、行政や企業が行っている活動はありますが、高校生が自主的にしているというものはあまり聞いたことがありません。多摩市から日本全国に広がっていくと良いですね。

京都精華大学メディア表現学部教授 鹿野 利春 氏
石川県の公立高等学校に教諭として勤務した後、石川県教育委員会主任指導主事を経て文部科学省に高等学校情報科担当の教科調査官として勤務。
新学習指導要領を取りまとめた後、「情報I」「情報Ⅱ」の教員研修用教材をまとめる。
GIGAスクール構想など、情報教育の施策に携わる。
2022年より一般社団法人デジタル人材共創連盟代表理事を務める。

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